《シリーズ第2回》
世界観ナビ|“なぜ猫猫は怒られない?”後宮の常識をくつがえすキャラが生まれた理由とは?
「え、猫猫って無礼すぎない……?」
『薬屋のひとりごと』を読みながら、そんなモヤッとした気持ちになった人も多いのではないでしょうか。
妃や宦官に敬語を使わない、毒の話を平然とする、感情をまったく表に出さない──
ふつうなら怒られそうな言動ばかりなのに、猫猫はなぜか《なぜかスルーされてる》ように見えますよね。
でも実はこの“違和感”こそが、猫猫というキャラクターの本質であり、『薬屋のひとりごと』という物語そのものの“仕組み”を読み解くカギでもあるんです。
この記事では、「猫猫はなぜ怒られないのか?」という疑問を出発点に、彼女の価値観・立ち位置・世界観とのズレをひも解きながら、《なぜ異質なのに許されるのか?》《なぜ異端でありながら重宝されるのか?》をストーリーと制度の両面からやさしく解説していきます。
🐱 猫猫の違和感、感じたことありませんか?
『薬屋のひとりごと』の主人公・猫猫(マオマオ)は、最初に登場した時からどこか他のキャラと空気が違いますよね。
あの格式高い後宮の中で、彼女は身分も低くて、口調もかなりラフ。敬語も使わず、表情もほとんど変わらない。
しかも、妃や宦官にも物怖じしないで、思ったことをズバッと言っちゃう。
──でも不思議なことに、誰もそれを本気で咎めたりしません。
読者としてはつい、こんなふうに思ったはずです。
- 「え?この子、罰せられないの?」
- 「なんで誰も怒らないの?」
でも実は、この“違和感”こそが猫猫というキャラクターの核心なんです。
そして、それはそのまま『薬屋のひとりごと』という物語全体の「構造」にもつながっていきます。
🧪 感情より「事実と結果」が大事
猫猫の言動を見ていると、いつもどこか“情に流されない”感じがします。
たとえば妃が涙を流しながら「流産かも」と訴えても、猫猫は慰めの言葉をかけずに、
- 香りや脈をチェックし
- 淡々と診断を下す
──「泣いても子は戻らない」なんてバッサリ言うことも。
でもこれは、冷たいわけじゃないんです。
彼女にとって最優先なのは、“命を救うこと”。そして、“結果を出すこと”。
花街での生活では、感情に振り回されていたら生き残れなかった。
だから猫猫は、悲しみを「処理すべき現象」としてとらえて、解決に集中するんですね。
この視点は、祈りや願いにすがる妃たちの感覚とはまったく違う。
だからこそ、猫猫の“異質さ”が浮かび上がってくるんです。
🚫 無礼なのに怒られない?その理由は…
猫猫って、どう見ても「無礼な子」ですよね。
妃や宦官に敬語を使わないし、言葉もズバズバ。毒の話だって平然と持ち出す。
相手の顔色なんて気にもしない──でも、誰も本気で罰したりはしないんです。
なんでそんなことが許されてるの?って思いますよね。
でもそこには、ちゃんと3つの理由があるんです。
✅ 猫猫が怒られない3つの理由
- 壬氏の後ろ盾があるから
猫猫は“特命の薬師”というちょっと特殊な立場。壬氏の命令で動いているので、制度の外にいながら中にいるような存在なんです。 - 曖昧な身分が逆に便利
一応“下女”なんだけど、やってる仕事は女官っぽいことも多くて、どっちつかず。このグレーな立場が、逆に誰からも干渉されにくくしてるんです。 - 結果を出してるから
猫猫がやってることって、後宮にとっては本当に助かってるんですよね。妃の命を救ったり、毒を見抜いたり。無礼でも「役に立つ異物」なら保護されるんです。
つまり、猫猫は制度の中で“必要なバグ”として機能している存在なんです。
🏆 “実績”が猫猫を守ってる
猫猫が無礼でも嫌われず、むしろ重宝されている理由。
それは、彼女がこれまでにたくさんの実績を積み上げてきたからです。
後宮って、政治と感情が入り混じったデリケートな場所。
そこで猫猫は、
- 毒を突き止めて妃を助ける
- 皇帝に関わる問題を穏便に処理する
- 誰も気づかない体調の異変をいち早く察知する
──そんなことを何度もやってのけてるんです。
普通の女官や下女じゃ到底できないことばかり。
でも猫猫はそれを、感情抜きで淡々とやる。
それって、ある意味“制度が見落としていた死角”を埋めるスキルなんですよね。
だからこそ、「無礼だけど必要な人」として周囲も認めざるを得ない。
猫猫の“異質さ”は、むしろ後宮にとってのセーフティネットになってるんです。
⚖️ 花街と後宮、価値観が真逆!
猫猫の行動を理解するには、「どこで育ったか」がめちゃくちゃ大事です。
彼女が育った花街は、現実主義の世界。
そこでは、
- 人の命に値段がつく
- 感情で動くと損をする
- 生き残ることが最優先
という、シビアで現実的な価値観が当たり前なんです。
たとえば、
「泣いても人は戻らない」
「飾っても毒は消えない」
そんなセリフが日常にあるような場所。
一方、後宮はというと…
見た目はきらびやかだけど、実は
- “見せかけの感情”
- “建前の倫理”
で成り立っている世界。
妃たちは、皇帝の寵愛を勝ち取るために、香りや化粧で“理想の自分”を演じる。
でも猫猫にとってそれは、「生きる」ためじゃなく「虚構」にしか見えないんですよね。
だから後宮のルールや感情のやりとりが、猫猫にはちょっとバカバカしく映る。
この価値観のズレが、彼女の異質さをさらに際立たせているんです。
🩺 猫猫の冷静さ=医療者の目線
猫猫って、ただの物知り少女じゃないんです。
彼女のすごさって、《 医療者的な“冷静な目” 》を持ってるところなんですよね。
たとえば、
- 顔色のちょっとした変化
- 肌の湿り気や香り
- 呼吸のリズム
そんな“他の人なら見逃すようなこと”から、体調の異変や毒の兆候を読み取ってしまう。
それってもう、職人の域です。
しかも猫猫は、感情に流されずに判断できる。
- 誰かが泣いていても
- 怒っていても
ブレずに「正しいこと」を優先する。
まるで手術中の外科医みたいに、冷静に“命を救うこと”に集中してるんです。
そんな彼女の姿勢は、後宮みたいに“情”が支配する世界ではちょっと浮くけど、だからこそ信頼される存在にもなってるんです。
💬 猫猫と妃たち、話が噛み合わない理由
猫猫と妃たちの会話、なんだかすれ違ってるように見えることありませんか?
たとえば──
妃が「この香りを嗅ぐと、心が落ち着くの」と言った時、
猫猫はあっさり「その成分に鎮静効果はありません」って返しちゃう。
妃にとっては“気持ちの話”なのに、猫猫にとっては“化学的な事実”の話。
そりゃあ話が噛み合わないのも当然です。
妃たちは感覚や雰囲気で話すけど、猫猫は知識や根拠で返す。
そうなると、「冷たい子」「愛想がない」って思われちゃうのも無理ないかも…。
でも、これは猫猫が他人を軽視してるわけじゃなくて、“感情よりも事実を重んじる”生き方をしてきたからなんです。
妃たちの「願い」や「祈り」みたいな感情の発想と、猫猫の“冷静な視点”では、そもそも思考回路が違う。
だからすれ違って当然なんですね。
😶 なぜ猫猫は感情を見せないの?
猫猫って、すごく無表情で無感情に見えますよね。
- 嬉しいことがあっても笑わない
- 悲しい時にも泣かない
- 怒られてもスルー
── 一体なんで?って思いませんか?
でもそれにはちゃんと理由があって、猫猫は「感情を封印すること=自分を守ること」だと、幼い頃から体に叩き込まれてきたんです。
花街では、感情を見せたら“弱み”になる。
弱みを見せたら、すぐに利用される。
だからこそ猫猫は、感情を押し殺して生き抜く術を身につけたんです。
たとえば、
- 泣いても薬は調合されないし
- 怒っても毒は消えない
──それよりも、冷静に観察してどう動くかが大事。
後宮でもその姿勢は変わらず、猫猫は《 “動じない人間”として生きている 》んです。
それは、決して弱さじゃなくて──彼女の強さの証でもあるんですよね。
🔄 猫猫は「巻き込まれたくない」…でも?
物語の序盤で、猫猫は何度も
「巻き込まれたくないんだけど」
「面倒ごとはごめん」
みたいなことを言っています。
事件が起きても基本はスルー。
誰かに頼まれても、一歩引いて見てる感じ。
それもそのはずで、猫猫にとって“関与すること”は、花街での経験上《リスク》だったんです。
でも、物語が進むにつれて…猫猫の《心がちょっとずつ揺れていく》んですよね。
- 体調の悪そうな妃を放っておけなかったり
- 自分の言葉で誰かが傷ついたと気づいたり
──そういう場面が、彼女の中の何かを少しずつ動かしていきます。
そして特に大きいのが、《壬氏》という存在。
彼は猫猫に感情の揺さぶりをかけてくる、いわば《関与の引き金》みたいな人物。
この《関与と無関心の揺れ動き》が、猫猫の内面に《奥行き》を生み出してるんです。
ただの冷たい無表情な子じゃない。
でも、簡単に情に流されるわけでもない。
その《微妙なゆらぎ》こそが、彼女の成長であり、読者を惹きつける魅力なんです。
💫 壬氏だけは、猫猫の「心の距離」を縮める
猫猫にとって《壬氏》はちょっと特別な存在です。
ふだんの猫猫は、人との間にしっかり距離を置いていて、冷静な観察者ポジション。
でも、壬氏に対してはそれがうまくいかない。
というのも、壬氏は《猫猫が一番苦手なタイプ》なんです。
- 美男
- 権力者
- 気まぐれで掴みづらい
──つまり、猫猫が《最も警戒する属性》を全部持ってる(笑)
最初の頃の猫猫は、壬氏に対してめちゃくちゃ拒否反応を示します。
でもそれって、実は《猫猫が初めて感情を揺さぶられてる証拠》でもあるんですよね。
一方の壬氏も、猫猫に興味津々でどんどん距離を詰めてくる。
この《一進一退の関係性》こそが、猫猫にとって「制度と関わる」ための最初のきっかけになります。
つまり、《壬氏は猫猫にとって、心を揺らす“はじまり”の存在》なんです。
👀 猫猫は「読者の視点」に一番近い?
猫猫って、読者にとってすごく《不思議でおもしろい立ち位置》のキャラクターなんです。
というのも、彼女ってまるで《物語の外側からやって来た人》みたいな視点を持ってますよね。
後宮のややこしいルールや上下関係を見て、
- 「なにそれめんどくさい」
- 「無駄が多いなあ」
って思ったりするところ、すごく読者の気持ちに近いんです。
だから猫猫は、《読者の代理人》として、作品の中の複雑な世界を一緒に読み解いてくれる存在なんです。
でも同時に、猫猫って《あまり感情を出さない》から、読者から見てもどこか《距離感》がある。
共感できるようで、完全にはできない。
だからこそ、読者は彼女のことを
- 《もっと知りたい》
- 《なんでそう考えるの?》
と、どんどん惹かれていく。
猫猫は、物語のナビゲーターでありながら、常にどこか《ミステリアス》な存在として描かれてるんです。
🧭 猫猫は「制度の通訳」って気づいてた?
『薬屋のひとりごと』って、見た目は後宮ミステリーっぽいけど、実はすごく複雑な世界観なんですよね。
- 身分制度
- 権力バランス
- 男女の力関係
- 宗教や迷信的なルール
……このあたりが、けっこう分かりにくい。
でもそんな中で、猫猫って《制度の中を読み解いていく“通訳”》みたいな役割を果たしてるんです。
たとえば、香りや贈り物、化粧や食事に隠された《本当の意図》を見抜いて、その裏にある《人間関係や事件のカラクリ》まで明らかにしちゃう。
しかも猫猫は、《制度に巻き込まれることなく、冷静な立ち位置を保ってる》のがスゴい。
だからこそ読者にとっては、「猫猫の視点があるから、この世界を迷わずに楽しめる」
っていう、ありがたい《ナビゲーター》になってるんです。
🎭 猫猫が異質だから、物語に深みが出る
もし猫猫が他の女官と同じように、
- 身分を気にして
- 寵愛を夢見て
- 感情に振り回される
そんなタイプのキャラだったら、この作品ってたぶん《ふつうの後宮ドラマ》で終わってたと思うんです。
でも、猫猫はそうじゃない。
彼女の《ズレた視点》や《制度の外からのまなざし》があるからこそ、事件の真相にも《深み》が出てくるし、物語全体が《もう一段上のレイヤー》で進んでいく。
猫猫は、《設定上の異物》なんじゃなくて、物語にとって《視点を変えてくれる存在》なんです。
制度の内側にいる人たちじゃ見えないこと、感情に流される人たちじゃ気づけないこと──
それを《読者に見せてくれる》のが猫猫なんです。
そしてその《異質さ》が、作品に《リアリティと知的な緊張感》をプラスしてるんですよね。
🔚 まとめ|猫猫の“ズレ”があるから物語が動く
ここまで読んできてわかるとおり、猫猫の《異質さ》って、ただのキャラの個性じゃありません。
それは、『薬屋のひとりごと』という物語そのものを読み解く《鍵》になってるんです。
- 制度の外から中を見る
- 感情を排して事実を重視する
- 命を守ることを最優先に動く
──こんなふうに、猫猫は《枠の外にいる観察者》として、後宮という世界の《仕組み・歪み・本音》をあぶり出していきます。
彼女は《誰かを救うこと》もあれば、《あえて無視すること》もある。
でもどちらも、物語に《静かな変化》をもたらしています。
そして何より、猫猫がいるからこそ、この物語は《知的で奥行きのある後宮ミステリー》になっているんです。
猫猫は、物語における
- 《バグ》であり
- 《批評家》であり
- 《希望》でもある
──だからこそ、私たちは彼女のことを《もっと知りたい》って思い続けるんですね。