《シリーズ第1回》
世界観ナビ|複雑な「後宮」制度と「宦官」の役割を、はじめてでもわかるように解説!
『薬屋のひとりごと』を読んでいて、
「なぜ女たちばかりの空間がこんなに緊張感あるの?」
「宦官ってなに? 皇帝の身の回りに仕える人?」
「紫禁城って聞いたことあるけど、物語の舞台なの?」
そんな疑問を感じたことはありませんか?
本作の魅力のひとつは、物語の背後にある緻密でリアルな世界観。
けれど、その背景を知らずに読み進めてしまうと、登場人物の行動や関係性が「なんとなく」で理解されてしまう場面も少なくありません。
この《世界観ナビ》シリーズでは、そんな読者の“ひっかかり”をひとつずつ丁寧に解きほぐしていきます。
第1回となる今回は、作品全体にかかわる「後宮制度」「宦官の役割」「紫禁城の構造」など、
物語の基盤となる知識を徹底ガイド。
📚 ストーリーにもっと深く没入したい方へ。
💡 初心者でもわかる視点で、読み解きの道しるべをお届けします。
🏯 第1章|紫禁城ってなに?どんな構造?
── 『薬屋のひとりごと』の“宮廷”はこうできている!
「猫猫(マオマオ)がいる“後宮”ってどこ?」「妃たちはどういう場所で暮らしてるの?」
そんな疑問に答えるために、まずは物語の舞台となる「宮廷」の構造をしっかり理解しておきましょう。
物語中では「王宮」や「後宮」といった言葉が登場しますが、そのモデルになっているのが、中国の明〜清代に実在した巨大な宮殿都市――紫禁城(しきんじょう)です。
🏛 紫禁城とは?
紫禁城とは、中国・北京に実在した皇帝の住まい。
明(みん)から清(しん)まで、約500年にわたり歴代皇帝が暮らしていた宮殿で、現在は「故宮博物院(こきゅうはくぶついん)」として保存されています。
その広さはなんと72万㎡以上。建物数は900以上。
当時の技術の粋を集めた、まさに“帝国の中心”です。
🗺 紫禁城の構造を簡単に説明すると…
紫禁城は、南北に細長い直線構造をしています。
そして、北に行くほど“格式が高く”、皇帝の私的な空間になります。
📌 《 図解 》
【南】(入り口)
├─ 午門(ごもん)…正門。ここからしか出入りできない
├─ 外廷(がいてい)…官僚たちが政務を行う場所
【中央】
├─ 太和殿・中和殿・保和殿…儀式、政治の中心
【北】(最奥)
├─ 内廷(ないてい)・後宮(こうきゅう)…皇帝と妃たちの生活エリア
├─ 乾清宮(皇帝の寝殿)
├─ 坤寧宮(皇后の住居)
├─ 六宮(妃たちの個別住まい)
《紫禁城・簡略構造図:南→北のエリア移動と建物の機能分布》
👑 紫禁城は「空間のヒエラルキー」
紫禁城のすごいところは、「建物そのものが権威を表す」設計になっている点です。
- 南(入り口)から入ると、誰もが長い道を通らねばならず、「奥へ行く=位が高い」という象徴
- 建物の高さ、屋根の色、飾りの数、全てが“位”によって決まっている
- 中軸線(ど真ん中)に最も重要な建物だけが置かれ、左右は「文(東)」と「武(西)」で分けられる
つまり、猫猫が最初にいた“後宮の下女エリア”は、紫禁城の中でも最も奥・最も下の場所なんです。
そこから物語が進むごとに、猫猫が「もっと格式の高いエリア」へと足を踏み入れていくことで、読者も一緒に“世界の核心”へ近づいていく構造になっています。
✅ この章のポイントまとめ
- 『薬屋のひとりごと』の宮廷は、「紫禁城」がモデル
- 紫禁城は南北に直線で構成され、北へ行くほど権威がある
- 中軸線上に皇帝や皇后の居所があり、その裏手に妃たちの住む「六宮」がある
- 空間全体が“身分制度”を表しており、猫猫の動線もそれをなぞっている
次章では、紫禁城の最奥にある「後宮」とはどういう場所なのか?
そこに暮らす妃たち、女官たち、そして猫猫の立場を詳しく掘り下げていきます。
🌸 第2章|後宮とは?誰が住んでる?どういう仕組み?
── “女だけの世界”ってどんな場所なの?
『薬屋のひとりごと』の物語の多くは、「後宮(こうきゅう)」という空間で展開されます。
猫猫(マオマオ)もまた、この後宮に“下女(げじょ)”として連れてこられた少女でした。
でも…
「後宮って、ハーレムなの?妃たちの寮なの?」「女官ってどんな仕事?」
そんな疑問を持った方も多いはず。
この章では、後宮という空間の“仕組み”と“中で暮らす人たち”の関係性を、ひとつひとつ整理していきます。
💡 後宮とは「皇帝の私的空間」=政治から切り離された閉鎖社会
中華王朝では、宮廷(紫禁城)は大きく2つに分かれていました。
- 外廷(がいてい)=政治の場。役人たちが働くエリア
- 後宮(こうきゅう)=皇帝のプライベートな居住空間。女性と宦官だけの世界
つまり、後宮とは…
政治から切り離された、“女性だけ”の都市のようなものです。
🏯 後宮の中に住んでいる人たち
ここが重要ポイント!
「後宮には妃しかいない」わけではなく、次のような階層の女性たちが働いています。
📌 《 図解 》
【最上位】皇后(こうごう)
├─ 皇貴妃・貴妃・妃・嬪(妃たち)
│ └─ 高位と低位にわかれ、派閥を作ることもある
├─ 女官(じょかん)…実務担当、教育や文書、接客など
│ └─ 尚宮(しょうぐう)など階級あり
├─ 宮女(きゅうじょ)…掃除・配膳・雑務などの補助役
└─ 下女(げじょ)…もっとも下の立場。労働力
《後宮に暮らす女性たちの分類ピラミッド》
🧭 猫猫のいた「下女」という立場とは?
猫猫が物語開始時にいたのは「下女(げじょ)」というポジション。
これは、後宮の中でも最も身分が低く、日々の雑務や掃除、荷物運びなどを任される存在です。
教育は受けておらず、妃や上位の女官と話すことすら基本的には許されていません。
それでも、猫猫は持ち前の知識と観察力で、やがて上位の妃たちから信頼を得ていきます。
この“最下層からのし上がる”という構図こそが、物語の大きな魅力でもあるのです。
🌺 女たちの“見えない戦い”
後宮は、妃たちの“愛されたい”という想いと、権力の思惑が入り混じる空間。
- 皇帝に選ばれれば昇進、寵愛を失えば転落
- 子を産めば地位が高まるが、産めない妃は冷遇される
- 女官同士の出世争い、派閥抗争もある
- 妃同士の嫉妬、陰口、陰謀、そして…毒…
猫猫が遭遇する事件のほとんどは、こうした後宮の“複雑な人間関係”から生まれています。
単なるミステリーではなく、“制度に縛られた女性たちの闘い”として見ることで、作品の深みが一層増します。
✅ この章のポイントまとめ
- 後宮は「皇帝の私的空間」で、女性と宦官だけの世界
- 中には、皇后・妃・女官・宮女・下女など様々な階級の女性たちがいる
- 猫猫は最下層の“下女”からスタートする
- 後宮は「美しく静かな空間」ではなく、“嫉妬と権力の縮図”でもある
次章では、その後宮において最も重要な存在である“妃”たちの身分制度――
「妃の序列」ってどうなってるの? を丁寧に解説します。
👑 第3章|妃の序列ってどうなってるの?
── 誰が一番偉くて、どうやって決まるの?
『薬屋のひとりごと』を読んでいて、
「玉葉妃(ぎょくようひ)ってすごい偉そうだけど、皇后じゃないの?」
「梨花妃(りかひ)と他の妃ってどう違うの?」
そんな疑問を抱いたことはありませんか?
ここでは、後宮における妃たちの**階級制度(ヒエラルキー)を、史実モデルに基づいて丁寧に解説します。
📚 実在の制度がベース|明〜清代の妃のランク
作中の世界観は「架空の中華王朝」ですが、モデルになっているのは明代〜清代の後宮制度です。
この時代の妃たちには、厳格な“位(くらい)”の序列があり、皇帝の気まぐれではなく、身分・実績・子どもの有無・寵愛などによって昇格や降格が決まっていました。
🏷 妃たちの序列(高い順に解説)
📌 《 図解 》
1. 皇后(こうごう)…後宮の頂点、皇帝の正室、妃全員の管理者
2. 皇貴妃(こうきひ)…特別に寵愛された妃。ほぼ“副皇后”のような存在
3. 貴妃(きひ)…高位の側室。1~3名程度
4. 妃(ひ)…中位の側室。複数名いる
5. 嬪(ひん)…やや下位の側室。10人以上
6. 貴人(きじん)…下位の妃候補。位は低いが昇進可能
7. 常在・答応(じょうざい・とうおう)…妃見習い的存在。待遇は低い
8. 宮女(きゅうじょ)…妃ではなく使用人的な立場
《妃の身分ピラミッド図:序列と人数の概念》
💡 位が上がる条件とは?
- 皇帝の寵愛(ちょうあい)を受けている
- 皇子を出産した
- 礼儀作法・徳を身につけていると判断された
- 他の妃の失脚により繰り上がった
- 政治的な派閥の後ろ盾がある
こうした要素によって、妃たちは出世したり、逆に左遷されたりします。
🧨 実は“命がけ”の世界
妃たちはただ皇帝に愛されることを夢見ているわけではありません。
愛=地位=家族の命運と直結しているからこそ、後宮はときに“戦場”になります。
- 嫉妬で毒を盛る
- 服装や香りで皇帝の気を引く
- 他妃を中傷するために偽の噂を流す
- 仕える女官や宦官すら“スパイ”として使う
こうした描写が『薬屋のひとりごと』にはリアルに描かれています。
🌸 作中の妃たちの立ち位置(※ネタバレなし)
妃名 | 序列予想 | 特徴 |
玉葉妃 | 貴妃〜皇貴妃 | 威厳があり、実質的な後宮の女王のような存在 |
梨花妃 | 妃〜嬪 | 美しく賢いが、政治的にやや不利な立場 |
他の妃たち | 貴人・答応 | 台詞や出番は少なくとも、事件の鍵になることも |
✅ この章のポイントまとめ
- 妃には明確な序列があり、「皇后」が頂点
- 序列は愛情・子ども・政治など複数の要因で上下する
- 玉葉妃・梨花妃もその中にいるが、正妻ではない
- 後宮は“愛の空間”であると同時に“政治の縮図”
次章では、そんな妃たちの間を取り持つ「宦官(かんがん)」とはどんな存在なのか?
なぜ男性なのに後宮にいるの?どうしてそんなに権力を持っているの?
読者がもっとも混乱しやすい「宦官制度」を解き明かします!
👤 第4章|宦官って何者?
── なぜ“男なのに”後宮で働けるの?
『薬屋のひとりごと』に登場する、謎多き美形の“宦官”――壬氏(じんし)。
「見た目は完全に王子様なのに、宦官ってどういうこと…?」と思った方も多いのではないでしょうか。
ここでは、「宦官(かんがん)」という制度が何なのか、どうして必要だったのか、そして『薬屋』の物語においてどんな意味を持っているのかを解説します。
✂️ 宦官とは?ざっくり言うと…
宦官=去勢された男性のこと。
つまり、性的能力を失うことで“女性とみなされ”、後宮(女性だけの空間)に立ち入ることを許された存在です。
🏯 なぜ宦官制度が必要だったの?
- 後宮は皇帝だけの女性たちの居場所。男性の出入りは禁じられていた
- でも、掃除・連絡・配膳・管理など、人手は必要だった
- そのため、“性的に無害”な存在=宦官を使うようになった
しかし、宦官たちは単なる雑用係ではありません。
時代が進むにつれて、《 権力を持つ“皇帝の側近” 》として、政治の中枢に食い込んでいくことになります。
📊 宦官の階級ピラミッド(明代モデル)
📌 《 図解 》
1. 総管太監(そうかんたいかん)…全体のトップ。皇帝の信任厚く、実質政治家
2. 内監・司礼監(しれいかん)…文書、儀式、財政、後宮管理などの各担当部門長
3. 掌印太監(しょういんたいかん)…皇帝の印章や文書を管理する特権職
4. 部署宦官…部署ごとの業務執行者(厨房、書庫、宝物庫など)
5. 下級宦官…掃除、使い走り、夜番などの労働中心。地位は低い
《宦官の階級構造と役職別業務マップ》
🌀 宦官の“二面性”
面 | 内容 |
忠実な補佐官 | 皇帝の命令を即時に実行する“最も信頼される存在” |
腐敗と陰謀の温床 | 政治に介入しすぎて、歴史的に大事件の引き金にも |
去勢されたことで“家族”を持てず、“財産”を残せないため、名誉や地位に執着しやすく、陰謀の中心になることも多かったのです。
💠 『薬屋のひとりごと』の壬氏とは?
壬氏は“宦官”として後宮に出入りしていますが、実は…(※詳細はネタバレになるため割愛)。
ただし、彼の存在が特別な理由として:
- 宦官なのに極端に美しい → 他の宦官との違和感が物語の鍵
- 宮廷の権力者にして、猫猫に特別な任務を与える
- 「性別」「身分」「権限」すべてがミステリアス
宦官制度を理解していれば、壬氏の言動の“裏”にも気づけるようになります。
✅ この章のポイントまとめ
- 宦官=去勢された男性。後宮で働くための特殊な存在
- 掃除係から皇帝の側近まで、幅広い階級があった
- 時に政治に深く関わることで、腐敗や陰謀の中心にもなった
- 『薬屋』の壬氏は“規格外の宦官”として描かれており、彼の正体は物語の重要な鍵
次章では、猫猫(マオマオ)という主人公がこの複雑な後宮社会でどんな立場にいるのか。
「猫猫の視点で見た宮廷」ってどんなふうに歪んでるの? を深掘りしていきます。
ありがとうございます!
それでは次に、第5章|猫猫の立場と、他の女性たちとの違い をお届けします。
🐾 第5章|猫猫の立場と、他の女性たちとの違い
── “制度の外側から”見ているからこそ見えるもの
『薬屋のひとりごと』の魅力のひとつは、**猫猫(マオマオ)という主人公の「立ち位置」**にあります。
彼女は“後宮に属していながら、そこに染まっていない存在”です。
この章では、猫猫がなぜ特別な目線を持てたのか、彼女がどのように後宮社会を見ているのか、そして他の女性たちとの違いが物語にどう影響しているのかを見ていきます。
🧪 猫猫は「下女」ではあるけれど“ただの下女”ではない
猫猫は、物語冒頭で花街から後宮へ「下女(げじょ)」として連れてこられます。
しかし彼女は、普通の下女とはまったく違う“能力”を持っていました。
- 花街育ち → 世の中の裏側に慣れている
- 薬屋の娘 → 東洋医学・薬草・毒への深い知識がある
- 調香・調薬・症状の観察 → 体調・病気・異変を瞬時に見抜ける
- 感情的にならず、常に“冷静に分析”する
そのため、猫猫は“上の人間”が見逃すような問題にも気づいてしまうのです。
🪞 他の女性たちは「制度の中で生きている」
後宮の妃たち、女官たち、下女たちは、みな“制度の中での役割”を果たすために生きています。
- 妃たちは寵愛と出世のために自分を着飾る
- 女官たちは規律と秩序に従って働く
- 宮女・下女たちは目立たず、忠実であることを求められる
みんなが“ルール通りに”生きているからこそ、猫猫のように「ルールを知りながらも従わない存在」は異質で、そして重要です。
🔍 猫猫の視点は、制度の矛盾や理不尽を“炙り出す”
猫猫は、感情に流されず、“なぜこの人は倒れたのか?”
“この妃の症状には矛盾がある”というように、制度や人間関係に対しても常に「観察者」としての目線で向き合います。
だからこそ、以下のような事件の真相にも辿り着けるのです:
- 毒に気づかず苦しんでいた妃を救う
- 誰も見ていなかった“香の変化”に違和感を覚える
- 下女の死の理由を分析し、真犯人を突き止める
🎭 “共感”ではなく“知識”と“論理”で人を助ける
猫猫の行動は、正義感やお節介ではありません。
ただ単に「謎を解きたい」「面白いから調べたい」という“好奇心”から来るもので、それが結果的に誰かを助けるというスタンスです。
この「他人と距離を保つ目線」が、制度や人間関係に染まっていない“第三者視点”のリアリティを生み出しているのです。
✅ この章のポイントまとめ
- 猫猫は制度の“最下層”にいながら、“制度の外側”から見ている存在
- 他の登場人物が従っている「ルール」や「常識」を疑い、観察し、突き崩していく
- 感情よりも知識・論理・冷静な視点が、彼女の最大の武器
- だからこそ、猫猫の視点を通して「後宮という制度」の矛盾や不条理が浮かび上がる
次章では、『薬屋のひとりごと』という物語を支える“文化的背景”――
つまり、「この世界はどんな時代なの?どのくらい現実と似ているの?」という視点から
時代背景の考察をお届けします。
🏮 第6章|物語の背景時代はいつ頃?どんな文化がモデル?
── 架空の帝国はどの時代に近いのか?
『薬屋のひとりごと』は、“架空の中華風王朝”を舞台にしています。
物語の中では、はっきりとした国名や歴史の時代設定は明かされていません。
でも、読んでいくと「これは実在した制度かも?」「服装や建物が昔の中国っぽい…」と感じる場面がたくさん出てきますよね。
この章では、物語の世界観のベースとなったと考えられる歴史や文化について解説します。
🏯 モデルとなった時代は「唐代〜明代」あたりが濃厚!
作中には以下のような文化・制度が登場します:
要素 | 現実の参考モデル |
後宮制度 | 唐・明・清 |
宦官の存在 | 唐〜明 |
科挙(かきょ)制度 | 隋〜清 |
薬草学・毒物の扱い | 唐・宋〜明(『本草綱目』など) |
建築・宮廷文化 | 明〜清(紫禁城が代表) |
これらを踏まえると、物語の舞台は唐〜明代の中華王朝の要素をミックスした、架空の帝国であると考えられます。
🧵 衣装や建物のデザインも「中華風」がベース
アニメ版や漫画版で見られる衣装や建築様式も、中華風デザインが随所に反映されています。
- 妃たちが着る広袖の衣 → 唐代〜明代の宮装(くすり指の爪隠しなども描写あり)
- 建物は朱塗り+黄色い瓦 → 明代の紫禁城の様式
- 香炉や調香の習慣 → 宋代以降の文化が濃厚
これらは「読者・視聴者が“中華風の世界”だと直感的にわかるように」デザインされているのです。
📜 実在の知識書から引用される“薬草”の描写
猫猫の知識の多くは、実在する東洋医学・本草学の理論に基づいています。
たとえば:
- 附子(ぶし)=猛毒。だが適量であれば鎮痛に使える
- 牛膝(ごしつ)=血流改善薬
- 石膏(せっこう)=熱冷ましに使われる白い鉱物
- 香附子(こうぶし)=香りの安定剤として活用
これらはすべて『本草綱目(ほんぞうこうもく)』という明代の薬草百科事典に載っている成分。
つまり、《 猫猫の推理は“ファンタジーではなく、東洋医学に基づくロジック” 》で組み立てられているのです。
💬 科挙制度や身分階級もリアルな描写
作中では、高官になるために“試験”を受ける制度があり、身分によって人生が制限される場面も多く描かれます。
これは、中国の「科挙制度」がモデル。
- 文官になるには“知識”と“試験の合格”が必要
- 生まれで階級が決まる封建社会
- 官僚と妃、宦官と商人などが厳しく区別される
こうした社会構造のリアルさが、『薬屋』を“中華風ファンタジー”で終わらせず、リアルな宮廷劇として成立させている大きな要因です。
✅ この章のポイントまとめ
- 『薬屋』の背景世界は、唐〜明代の中国がモデル
- 宮廷制度・衣装・薬草・官僚制度はすべて史実に基づいた設計
- 猫猫の知識は東洋医学に裏打ちされた“実在ロジック”
- ファンタジーに見えて、実は“極めて歴史的にリアルな物語”
次章では、ここまでで扱ってきた《 「世界観」を誤解せずに楽しむためのチェックポイント 》をまとめます。
❓ 第7章|よくある誤解ポイントまとめ
── 「あの人、どうしてそんな態度なの?」を正しく理解するために
『薬屋のひとりごと』は、設定が非常に緻密でリアルな反面、背景を知らないと「どうしてそうなるの?」と混乱することも多い作品です。
ここでは、読者・視聴者がつまずきやすいポイントや勘違いしがちな部分を、Q&A形式でまとめて解消しておきましょう!
💬 Q1:宦官って、みんなオネエっぽいの?
A:見た目や話し方が女性的な宦官もいますが、“役割”が特殊なだけです。
→ 宦官は身体的に「去勢」されているため、声が高くなったり、動きが柔らかくなることがあります。
ただし、本質的には「任務を担う宮廷職員」であり、見た目の中性性は“制度上の必要”にすぎません。
💬 Q2:妃って何人もいるの?浮気じゃないの?
A:中華王朝では“正室+複数の側室”が正式な制度です。
→ 一夫多妻制が公的に認められており、「皇后」は正妻、「貴妃」や「妃」などはその下に位置する側室です。
それぞれの妃に担当の女官や住居が与えられ、正式に序列化されたうえで共存しています。
💬 Q3:猫猫ってなんでタメ口?もっと礼儀正しくすべきでは?
A:彼女は“制度の外”から来た異端者だからこそ、あの話し方が許されています。
→ 花街育ちで、教育よりも実践重視の環境で育った猫猫は、いわば“野良の知識人”。
宮廷の作法や礼儀には無頓着ですが、知識と観察眼で周囲から一目置かれることで、結果的に地位も発言力も得ていきます。
💬 Q4:壬氏って宦官なのに偉そうじゃない?
A:彼は「上位宦官」または“それ以上の特権階級”に属している特別な存在です。
→ 詳細はネタバレになりますが、彼は形式上は宦官でも、実際には皇帝に近い立場にいて、後宮内でも非常に強い発言権を持っています。
だから猫猫にも“命令”できるのです。
💬 Q5:事件が起こりすぎじゃない?後宮ってそんなに危険?
A:現実の後宮でも、毒殺・陰謀・中傷は珍しくありませんでした。
→ 愛と政治と嫉妬が入り混じる空間である後宮では、実際に毒・呪詛・失脚・内部抗争などが多数記録されています(例:唐代の則天武后の時代など)。
猫猫の知識が事件を暴き出すことで、後宮の“表と裏”が見えてくるのです。
✅ この章のポイントまとめ
- 設定や制度を知らないと、登場人物の行動が誤解されやすい
- 宦官・妃・猫猫などの“立場”を理解してこそ、物語の奥行きが見えてくる
- 「なぜそんな行動をとるのか?」の裏には、すべて“制度のロジック”がある
📚 まとめ|世界観がわかれば、物語はもっと面白くなる
『薬屋のひとりごと』は、単なるミステリーでもラブコメでもありません。
その本質は、“制度と知識の中で生きる人々”の物語です。
この記事では、
- 紫禁城の構造
- 後宮という空間の仕組み
- 妃の序列
- 宦官の正体と役割
- 猫猫の特異な立場
- 時代背景と文化的モチーフ
…といった要素を丁寧に解説してきました。
これらを知ることで、読者は「表面的なストーリー」だけでなく、
その裏にある人間関係の機微(きび)や、制度の影響、階級の重さまで感じられるようになります。
特に猫猫のように、制度に属しながらそれを疑い、知識と観察力で真実に迫る“異端の存在”の視点は、私たち読者にとっても“目の代わり”なのです。
🪞 今後の読み方のヒント
- 登場人物の言動を「感情」だけでなく「制度的背景」から読み解く
- 毒・香・薬などの“見えない武器”がどう使われているかに注目する
- 誰がどの“身分”で、どの“空間”にいるのかを意識しながら読んでみる
そうすることで、《 『薬屋のひとりごと』という物語の“奥行き” 》が何倍にも広がります。
📖 用語解説一覧
用語 | 意味・補足 |
後宮(こうきゅう) | 皇帝の妃・女官・下女たちが暮らす女性限定の空間。男性立入禁止(宦官を除く) |
紫禁城(しきんじょう) | 明・清代の皇帝が暮らした巨大な宮殿。北京に実在する。 |
宦官(かんがん) | 去勢された男性。後宮で働くことができ、皇帝の側近となることもある。 |
皇后(こうごう) | 皇帝の正妻。後宮の頂点に立つ女性。 |
妃(ひ)・嬪(ひん) | 側室の総称。序列があり、高位になるほど発言力が強い。 |
下女(げじょ) | 宮中で最下層の使用人。猫猫はここからスタートした。 |
香(こう) | 香炉に焚かれる香り。時に薬・毒・トリックの要素となる。 |
科挙(かきょ) | 優秀な文官を選ぶための試験制度。知識と教養が問われる。 |
本草綱目(ほんぞうこうもく) | 明代に編纂された東洋医学・薬草の大辞典。猫猫の知識の元ネタ。 |
壬氏(じんし) | 宮廷の上位宦官。美形でミステリアス。猫猫に特別な関心を持つ人物。 |
これで『薬屋のひとりごと』第1回記事「世界観の徹底解説ガイド」は完結です。